(男の不妊治療物語 第一話 | 精子特性分析一回目「卵子に到達できない精子」からお読みください。)
1.不妊治療を通して学んだこと
妻が判定診断で別室に行っている間、僕はクリニックの待ち合い室で彼女が戻って来るのを静かに待っていた。
期待半分、不安半分。そして緊張全開。
ここまでの八ヶ月。勢いで突っ走ってきた感がつよいけど、「もしここでダメだったら、一回夏休みをとって妻と旅行にでも行こう」と彼女には内緒で内心決めていた。
そのくらいこの半年強の日々は僕たちにストレスを課していた。
不妊治療を進めていく過程において夫婦の関係性が悪くなるという話をよく聞く。
身体的にも精神的にもさまざまなストレスがかかるこの長い治療過程において、その発散の対象が配偶者になってしまうのが大きな原因だ。
価値観の違いが明確になる場合もあるし、治療を続行するのに必要な金銭的限界が近づいてくる不安もある。
それらの感情は、言い換えれば「闘い方がわからない閉塞感」とも似ている。
どこに進めば光がみえるのか。
自己否定の連続が闇の色をさらに濃くしてゆく。
そんな状況に陥ったならば、ふたりで小さな喜びを積み重ねるしかない。
小さな喜びの連続を共有することで、自己肯定感を高め、配偶者という他者への肯定感も高める。
そうしなければこの閉塞感とは闘えないと、僕はこの不妊治療を通して学んでいった。
2.妊娠告知
声がかかり診察室に移動する。
中にはいるといつもの担当医が立ったまま僕らを出迎えた。
「おめでとうございます。妊娠です」
医師の言葉に一瞬だが頭の中が真っ白になった。
「よっしゃーっ」
興奮して思わず声を出し立ち上がり、妻の顔を見る。
嬉しそうに満面の笑顔を浮かべている。
それを見た瞬間、思わず涙があふれたきた。そして彼女とハイタッチをした。
その感情は子どもを授かる可能性ができた嬉しさ。
達成感。解放感。安堵感。
すべてが入り混じっていた。
その時のことを妻はインスタの日記にこう記している。
妊娠がわかった日。
診察室で主人が号泣しハイタッチしてきたら、その手が私の顔面に当たり、痛さとおかしさで私は感動のタイミングを失いました。
(妻のインスタ日記より)
3.脱出胚盤胞と孵化中胚盤胞
後日、医師からうけた説明によると、二回目の移植につかわれた胚盤胞は前回のものよりグレードは下のものということだった。
凍結時のグレードは【 3BA 】。融解後は【 5BB 】。
医学的には孵化中胚盤胞とよばれているものだそうだ。
しかしこの写真をみて、脱出胚盤胞よりも孵化しつつある躍動感を僕は感じた。
「これから生きてやる」
そんな想いをこの写真の胚盤胞は力強く僕に訴える。
その「あがく姿」に自分を投影する。あがいてきた僕たちの姿を投影する。
そして、こんな小さな存在の未来の息子に、僕は勇気をもらったんだ。
「これからも生き抜いてやるぞ」ってね。
(グレードや着床率などに関するより詳しい内容は、ベネッセが運営しているサイトの受精卵の成長の過程と、グレードと着床率の関係について教えて!|ウィメンズパーク という記事に非常にわかりやすく書かれています。)
4. 約束の橋に誓う覚悟
帰り道。
妻の嬉しそうな話し声を聴きながら、僕は車を走らせていた。
向かう先は、立川水天宮 阿豆佐味天神社(あずさみてんじんしゃ)。
不妊治療中に何度も参拝しては、帰り道にカフェデートをした神社だ。
「やっぱ、阿豆佐味さんにお礼にいかなくちゃだよね」
クリニックから駐車場に向かう途中、僕が言った言葉に彼女が応える。
「いこいこ!妊娠の報告もだけど、妊娠が無事継続できますようにってお願いしなくちゃ」
「ですよねー」
ま、そんな流れがあって、僕は車を走らせていた。
初夏の空は爽やかに晴れ渡たり、木漏れ日が眩しくつづく。
カーステレオからは佐野元春の「約束の橋」が流れる。
今までの君はまちがいじゃない
君のためなら橋を架けよう
これからの君はまちがいじゃない
君のためなら河をわたろう
(引用元:「約束の橋」作詞作曲:佐野元春)
さぁ、これから新たな闘いの幕開けだ。
こころしていこうぜ。
人生とは、自分が大切なものに出会う旅。
そして、それを守りぬく旅なんだ。
約束の橋 - 佐野元春&THE COYOTE GRAND ROCKSTRA (DaisyMusic Official)
(おわり)
【 あとがき 】
この長いシリーズ記事をお読みくださったみなさま、本当にありがとうございました。
最後、僕はいろんなことを思い出し、書きながら泣いてしまった。
だから文章が感情にながされしまい、お見苦しいかもしれない。
これをお読みになった不妊で悩むみなさまも、どうか自己否定はしないでください。
間違ってるかな、大丈夫かな、そんな自問に苦しまないでください。
結果はとても大切なものだけど、そこにむかうあなたの気持ちが、人生で一番大切なものなんです。それがわかる日が、いつかきっとやってきます。
この記事を書くことで、僕自身も大きな心の整理と覚悟ができました。
後日、このシリーズで言いたかったことをまとめた記事を書きたいと思います。
最後になりますが、
本当に、読んでくれてありがとう。
(不妊治療に伴うストレスを資料と照合した記事は↓コチラになります。)
(立川水天宮 阿豆佐味天神社の紹介記事は↓コチラになります。)