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【 体験実話 】男の不妊治療物語 第五話 | 授精確認と胚盤胞凍結

 

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男の不妊治療物語 第一話 | 精子特性分析一回目「卵子に到達できない精子」からお読みください。)

 

1.授精確認

 翌日の夕方。

僕と妻は家でクリニックからの電話を今か今かと待っていた。

15時を過ぎても連絡がはいらない状況に「やっぱそんなうまくはいかないものなのかも」と、ショックへ対する予防線を張りながら待っていた。

そこに着信音が鳴った。妻のスマホだ。

 

「もしもし」

彼女が心なしか不安げに電話にでる。

僕はなんだかんだ言って成功への期待感でいっぱいになっていたのでドキドキしながら彼女の表情と声音をうかがった。

「はい、はい」

電話の向こうの医師の声にうなづく彼女。その表情がわずかだがほころぶのがわかった。

 

「授精確認できたって」

電話を終えると彼女はうれしそうに僕を見た。そしてもう一度繰り返した。

「14個も授精確認できたって。それでこれから受精卵の培養にはいるから数日したらクリニックに来てくれって」

そう言いながら彼女は泣き笑いの顔を浮かべた。

それを見て、僕も笑って、そして泣いた。

まだ胚盤胞にもなっていないただ授精しただけの卵子。

それがこんなに尊い存在とは、不妊治療を経験しなかった一生わからなかっただろう。

 

【 受精卵の分割過程 】 

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(図解引用元:胚盤胞移植【ASKAレディースクリニック】

 

2.胚盤胞凍結へ

その一週間後、僕らは最終的な授精卵の説明をうけるためにクリニックに向かった。

妻はこの間も二回ほど診察で通っていたと記録に残っている。

ホルモン剤使用の副作用として子宮が通常時の七倍から八倍ほどもまで腫れ上がったため(卵巣過激刺激症候群、通称OHSS)、その治療として通院していた。

 

「先日14個の授精確認ができたと報告しましたが、一部分割過程で脱落し、移植可能な胚盤胞の数は12個となりました」

え、ここまで来て脱落するとか、そんなこともあるのか。

複雑な表情を浮かべる僕に目線をむけると医師は説明をつづけた。

 

要約すると、12個の胚盤胞はそれぞれその成長速度などによりランク分けされており、一番状態が良いと判断したものから移植を行っていく。12個すべてが移植可能なランク内にあるので、よほどのことがない限り、再度採卵などをする必要なない。これら胚盤胞を一回凍結し移植する方法を当院は採用しているので、一回目の移植は約二ヶ月後の五月末に行う予定。そして胚の凍結保存に関する説明。以上の四点。

 

大きな前進だった。

ついに移植という過程にステップアップだ。

日に日に前進する妊娠への期待に、僕らは喜びを隠せなかった。

その日は吉祥寺のカフェでケーキを食べたながらお互いの喜びを語り合った。

それは梅の季節が過ぎ、桜の季節へむかう隙間の季節。

空は高く、青かった。

 

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体外授精報告書※転載厳禁

 


3.不妊治療記事を書くことへの自問と葛藤

 ここまで書いてちょっとどうしようかと思うことがある。

 

なんか浮かれたものになっていて、不妊で悩んでいる方のために本当に立っているのかと。そう自問することがしばしばある。

 

僕らは高齢出産だったため、周囲に不妊治療をしているひとが多くいる。

その中には未だ結果がでず、日々苦しみ悩んでいるひともいる。

そのような人がこれを読んだときに不愉快に思わないだろうか。

僕は希望を感じさせられるものが書けているのだろうか。

自問の結果、かるく自己嫌悪におちいる。

 

それに不妊治療とは高度な医学治療のため、僕のような素人が書くことには信頼性などない。

ここにあるのは、不妊治療を体験した男がどのような視点でそれに向き合い、夫婦の絆と家族の未来を考えてきたかという、極めて私的な僕の感情の流れとその記録だけだ。

だから少しでもストレスに感じたり嫌な気持ちになった方は、もう読まない方がいいかもしれない。僕はそんなひとたちに余計なストレスを与えたくはないんだ。

 

夢なんてどうせ叶わない。

そう思うことが生きていると時々ある。

でも、そんな夢を叶えるには、ちょっとした希望の光に向かい、笑って進むしかないと僕は信じてる。

そしてこの物語も、そんなちょっとした光になればいいなと思って書いている。

だからもう少し書き続けます。

 

お読みくださっている方に、そんな僕の葛藤も理解してもらえたら、書いている僕も救われます。みなさんに甘えてるよね、それもわかってる。

 

(つづく)

 

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