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【 体験実話 】男の不妊治療物語 第七話 | 着床失敗と新たな決断

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男の不妊治療物語 第一話 | 精子特性分析一回目「卵子に到達できない精子」からお読みください。)

1.着床失敗

はじめての移植から二週間後。

暦はすでに六月にはいっていた。

結論からいうと、はじめての移植は失敗に終わった。

ここまでトントン拍子に進んでいた治療にちょっと楽観的になっていた僕たちにとって、それはとても大きなショックだった。

 

胚盤胞の移植を開始する際に、医師の判断でもっとも成長のよい=グレードの高いものから移植してゆくと説明を受けていたので、それも当然のこと。

「一番いいのがダメだったんだから、これからはもっと成功する確率は低くなるってことなのかな」と、二人してうつむきがちの日々を送った。

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一回目に移植された胚盤胞写真。※転載厳禁

 

これが一回目に移植された胚盤胞の写真だ。

後日、医師から説明を受けた内容によると、凍結保存胚にした時の状態でもっともグレードの高かった胚盤胞を融解し、成長させた状態のものである。

凍結時には【 3-4AB 】という状態だったが、初回移植時には【 6AA 】という最高グレードにまで成長。いわゆる脱出胚盤胞というものだった。

この最高のものでダメだったら、やはりもう無理なんじゃないか。

そんな諦めの気分が家の雰囲気を暗くした。

 

 

2.新たな決断と二度目の施術

移植失敗から初めての診察の日。

僕たちは医師からの説明を受けた後、二回目の施術を受けることを決断した。

施術日は二十日後の六月下旬と決めた。

理由はいろいろあるが、妻の年齢が40になるまでに受胎したいという彼女の気持ちが最も大きかった。もちろん僕も46という高齢であったため、なるべくはやく授かりたい、決着をつけたい、そんな気持ちで焦っていたというのもある。

まあ何というか、落ち込んでる暇なんてないよ!

そうやって自分たちを鼓舞する感じで決断した。

 

毎分、毎秒、新しい生き方が始まる。喜びをもって新しい日に立ち向かおう。足元を見つめるより、はるか前方に目を放つほうが、力強い足取りで進める。

by ジェローム・K・ジェローム(19世紀のイギリスの作家)

 

そしてまた毎日のホルモン剤投与(2種3回/日)の日々がはじまった。

彼女はよく散歩にでかけては休日にふたりで行きたいカフェを探してまわったり、ヨガやランニングなどで身体を動かしては血流をよくすること、そして身体を冷やさないことを意識して生活していた。

僕は僕でそんな彼女の気をまぎらわせるべく、休日になるとふたりで神社巡りやカフェ巡りなどをして過ごした。

そして気がつけば二度目の施術の日を迎え、それは一回目以上に淡々と終わった。

 

 

3.初夏の風とブルーオーシャン

その二週間後、判定診断を聴くべく僕たちは毎度のごとくクリニックに向かった。

 

この日のことはよく覚えている。

五日市街道から井の頭通りをいつものように車を走らせクリニックに向かう。

カーラジオから流れるのはFM東京のブルーオーシャン。

MCの住吉美紀のテンションがちょっとおかしくて好きなラジオ番組だ。

車窓をあけると初夏の風が流れ込む。

気持ちいい。

「なんかさ、今日の空気、ハワイぽくない」

助手席にすわる彼女にたずねる。

「うーん、言われてみれば爽やかだね」

「そうそう、なんかピンク色なんだよ、ピンク色」

 

ちょっと話が横にそれるが、僕はハワイに60回近く行っている。

ほとんどが仕事で若干飽きている面もあるが、行くと決まると毎回テンションがあがる。

その理由は、ハワイの空気と風。

特に朝のハワイの空気はピンク色にみえることがある。

夜間に降るスコールが空気中のゴミを落とし、そこをトレードウインドがきれいに掃除する。そしてそこに差し込む光の粒が美しい色彩を放つ。

そんな瞬間の空気の色を、光の粒感を、この夏の日に感じたんだ。

 

「なんか今日はいい結果が聴けそうな気がするー」

昔流行ったお笑いの真似をしながら僕がおどける。

隣で笑う彼女。

その笑顔があるだけで、僕たちは行けるよ、きっと。

 

(つづく)

 

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