注文住宅を建てようと決意してから三ヶ月。
これまで八社のハウスメーカーの営業マンと接し、話をしてきた。
その間、夢と希望、そしてそれに対峙する予算という現実の狭間に揺れながら、「どの営業マンが信頼できるか」を妻と何度も話し合った。
とある統計によれば、担当営業マンへの信頼や相性がハウスメーカーの決め手となったという人が全体の50%弱にのぼるという。
(引用元:ハウジングワールド立川の配布パンフレット資料)
もちろん営業マンとの信頼や相性だけで家を建てるわけではない。
しかし、家庭にとって数千万円という大きなお金をかける一大プロジェクトの発注において、やはり営業マンへの信頼というものは非常に大きな要素となる。
今回はこの三ヶ月間のハウスメーカー巡りを通して、僕の信頼をなくした営業マンのタイプを三つほど紹介することにより、住宅業界の営業マンたちにリアルな顧客の気持ちを知って欲しく思う。
契約を急がせるタイプ
→顧客はぶら下げられた人参に食いつく馬ではない
他の業界の営業マンにも多いタイプだが、契約を急がせるタイプの営業マンは基本的に信頼を失う。
A社の担当営業は若さ故の焦りか、このタイプだった。
「今月中のご契約でしたらば、相当なサービスをご提供できます」
このセリフを初回の打ち合わせで言われた時、僕の心の中ではそっと扉が閉まった。
確かにサービスは欲しい。それは万人がそうだろう。
しかし、物は注文住宅だ。
一般家庭において数千万という金額が持つ意味は非常に重たい。
その重たさを忘れさせるテクニックをハウスメーカーの営業マンたちは駆使する訳だが、そこに「顧客=数字」という営業マンのインサイトが透けてみえたら、信頼なんて築いていくこともできない。
しかも、まだ初回の打ち合わせだよ?
切り出すにしてもタイミングが早すぎる。
そんな僕の表情に気づかないのか、彼は言葉をつづけた。
「この御予算。一括でお支払いできませんか?」
「払おうと思えば払えなくはないかもしれませんが、税制優遇を受けない理由もわかりませんし、払う気はありません」
「はぁ、そうですか。それならもっと頑張れるのですが…」
自己都合、自社都合。
顧客の立場に立っている振りはしていても、その根底はそんなもんだ。
そして僕はその場でA社をそっと候補から外した。
値踏みしてくるタイプ
→顧客だって営業マンを値踏みしていると知れ
住宅メーカーやマンションギャラリーに赴くと、わかりやすく値踏みしてくるタイプの営業マンに遭遇する。
それそれで仕方がない側面もある。
向こうも仕事だし、冷やかしを相手にする時間コストは馬鹿にならないからだ。
初めてB社の展示場に行った時、担当営業は最初明らかにこちらを値踏みしていた。
第一希望のハウスメーカーだったため、少しカチンと来たが表情には出さず、名刺交換をしたら明らかに態度が変わった。良い方にね。
(名刺の肩書きだけ偉そうなだけなんだけど)
そしてそれから数回、そのハウスメーカーが建てた家を見にまわったり、商談フェスにも参加したりして徐々に彼を信頼するようになっていた。が、見積もりをだしてもらっている訳ではないので概算の金額が把握できないのが不安だった。
ある晩、思い切って彼に電話をした。
すると彼はこう答えた。
「出せないです?この金額ぅ」
無意識で悪意はないと思うが、彼の言葉には確実に「え?金ないのにウチに来てたの?」的な蔑みのニュアンスが僅かだが含まれていた。
「払えなくはないですよ」
「ですよね、安心しました」
そんな感じで淡々と電話は終わった。
しかし、通話を終えた瞬間、僕の中でB社は消えた。
彼に金を払う気は消え去っていた。
ごめんよ、これまで無駄な時間をかけさせてしまって。
冷たい風が吹く秋の夜空を見上げて、僕はすこし寂しく笑うしかなかった。
そんな内心で馬鹿にされてまで金を払うほど、僕もお人好しじゃないんでね。
他社をマウンティングするタイプ
→ローコストを馬鹿にする裏には顧客への値踏みがある
このタイプの営業マンのいるC社は、まだ候補に残っている。
現在、一回目の見積もりと図面を待っている状況だ。
そんな状況だが、僕の中ではC社の営業マンへの信頼は薄らいでいる。
その理由は彼の口から何度もでてくる「他社へのマウンティング発言」が原因だ。
この営業マンは早い段階から経験豊かで穏やかな設計士さんを打ち合わせに呼び、かなり僕を過剰評価している様子が感じられた。
なので、僕は何度も彼にメールを送り、僕が何を重視しているか、家を建てる上で何に悩んでいるかを説明してきた。が、彼からの返信にはいつもこの一行が入っている。
「価格が大切なのはわかりますが、まずはお金のことは後でいいと考えます」
そしてその一文を読むたびに、毎回残念な気持ちになる。
打ち合わせでは度々ローコストメーカーを小馬鹿にした話で笑いをとろうとする。
「Tホームさんでは…」「Qホームさんだと…」
わかりやすいマウンティングだなと最初は感じていて僕も愛想笑いを浮かべていたが、つい先週の商談フェスの際に「あなたはそんなメーカーを選ぶひとではないですよね?」という値踏みが裏に隠されていることに漸く気がついた。
ブルータス、お前もか…
夢にだけ注目させ、現実を無視して契約へ結びつけようとするフロー。
顧客の優越感を煽って囲いこむ、宗教や似非ビジネスセミナーと同じ手法。
それも営業テクニックのひとつとしては理解している。
僕もベネフィットを売ってなんぼの世界で生きているからわかる面もある。
現状、僕はC社のデザイン力にずっと惹かれている為、この営業マンに不信感があってもC社を第一候補に残している。
しかしながら、どこか通じてない気がして仕方がないんだ、色々と。残念ながら。
そしてこの不信感は契約した先もずっと付いてきそうな気がしてならない。
すごく一所懸命な面もあって、本当は彼を信頼したいんだけどね。
まとめ
→家を建てた後の資金計画の大切さ
→顧客=数字という営業マンのインサイト
→家を建てることは、命をつなぐこと
子育てと親の介護。
この二つが、注文住宅・戸建て・マンションの購入を考える層の二大動機だという。(引用元:ハウジングワールド立川の配布パンフレット資料)
そしてその層にとって最も重要になってくるのが、「家を建てた後の資金計画」だ。
うちの場合、ぶっちゃけて言うと「息子の教育費」。
自分の好みの家には住みたいが、出せる金額には限りがある。
それでもなんとか希望のメーカーに頼めるよう、工夫したい。
僕と同じようにそういう切実な想いを抱くひとは多くいると思う。
いわゆる当落線上の客。
ハウスメーカーの立場からしたら、そんな数字にならない可能性のある客に時間やコストをかけるのは無駄だという理屈もわかる。だから値踏みして、無駄な工程を減らすというのも理解できる。
しかし、顧客=数字という企業や営業としてのインサイトを顧客にみせてしまうのは如何なものだろうか。顧客は決して歩く数字ではない。
深淵を覗くとき、
深淵もまたこちらを覗いてるのだ
byニーチェ
注文住宅、戸建て、マンション。
それらを購入しようと考えているひとの多くは「お金と家と今後の生活のバランス」を本当にシビアに計算し、悩んでいる。
本当の命金だから当たり前だ。
そこに理解が及ばない営業マンは、信頼をなくす。
なぜならば、
家を建てるということは、
命をつなぐということだからだ。
(信頼を獲得するタイプのHM営業マンの話は、後日書きたいと思います。)