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【 体験実話 】失恋ダイエット 第一話 | 山形、山寺。その1015段の階段に後悔を刻む。

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恋とは自分本位なもの、

愛とは相手本位なもの。

by 美輪明宏

 

1.

物足りない。

正直そう思った。

 

山形、山寺、立石寺。

1015段の階段。

その階段をのぼりきれば、煩悩は消えるという。

しかし、登れど登れど煩悩は消えはしない。

たったこれしきのことでは、世界はなにひとつ変わりはしないんだ。

当たり前だ。

そんなことは、来る前からわかっていたんだ。

 

実はこの三日前に、僕は彼女から婚約破棄を言い渡されたばかりだった。

「もう無理。こんなんじゃ結婚できない」

電話の向こうで泣く彼女の耳には、慌てて取り繕う男の泣き落としなんて通じなかった。

そして終わった。

彼女と築いてきた関係性、その全てが終わったんだ。

 

式を三ヶ月後、新居への引越しを三日後に控えての出来事。

その理由は今はまだ話したくない。

しかし、その原因は間違いなく自分にあった。

そして傷ついたのは僕以上に間違いなく彼女の方だった。

それが辛かった。

 

だから、本来ならば新居での新生活がはじまるはずだったこの日、罪悪感に耐え切れず、こうして遠路はるばる始発の新幹線に乗ってこの山寺まで来たのだった。

一段一段、贖罪の気持ちをこめてのぼらねばという、意味不明な使命感に燃えて。

なのにどうだ。

むかし小説で読んだときは、さもキツイ階段のように書いてあったからやってきたのに、まったく物足りない。

こんなんじゃ、この罪悪感、全然拭えないよ。

救われないよ。

 

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山寺駅前でたべた冷やしダシ蕎麦。夏の清涼感にあふれた旨さだった。

 

2.

「写真、撮ってもらえますか」

山頂の有名なお堂の中。

女性の声に驚き振り返る。
そこには小さな女の子を連れた若い夫婦。

仕方ない。
慣れた手付きで立ち位置を指示する。
パシャ
「すごーい、プロのかたですか」
すこしだけ媚びた声音が堂に響き、いくつかの視線が集まる。
ごめんね、そんな気分じゃないんだ。
僕は曖昧な笑顔で流して、その場を立ち去ろうとした。
「あ、あのー」
今度は幸せそうな老夫婦。
いい笑顔だ。そんな目をされたら仕方ない。
パシャ
「すいませーん!」
次は学生の五人組。
はいはい。仕方ない。夏休みだしな。
パシャ

 

いつの間にか、僕はここの専属のように20組以上の写真を撮ることになった。

撮るのは嫌ではない。

仕事で慣れてるし、その瞬間は刹那だし。
でも、被写体の明るい感情の影響をうけ、僕の後悔の想いが弱くなってゆく。

それが嫌だった。そういう弱さも含めての自分なんだけど。

それに僕はそんなにいいひとではない。

だからなんかいたたまれなくなり、行列に並ぶひとに断りをいれるとひとり下山した。

途中、最後まで撮ってあげればよかったかな、なんて後悔も浮かんだが忘れることにした。

どうせ彼らも僕のことなんかすぐに忘れる。

 

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路傍の菩薩像の頭に蜻蛉がとまる。

3.

下りの途中、僕は路傍の菩薩像と出逢った。

その周囲で、蜻蛉が風にすべる。

素敵だった。優しかった。

だから山道に腰をかけ、そっと蜻蛉の動きをカメラで追うことにした。


どのくらいの時が流れただろう。

石となった僕に、カメラに、蜻蛉がとまる。

その複眼で僕はどうみえるのかな。目をあわせて問いかける。

しばらくして柔らかな夏の風が木立から流れ出し、蒸し返る草木の匂いに一帯が包まれると、空高く蜻蛉は飛び立った。

答えなんてない。

そうだよね、答えなんてどこにもないんだ。

この罪悪感、閉塞感にそんな簡単に答えなんてあってたまるものか。

仕方ないから、僕はポケットからタオルを取り出し汗をぬぐい、空を見上げた。

2014年、山形の夏。

その空は青く、そして暑かった。

それだけは今でも覚えている。

 

(つづく)

 

 

 

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