女優、志田未来が結婚した。
僕は一度だけ彼女と仕事をしたことがある。
あれは2010年の夏のことだ。
とある自転車メーカーのCM撮影。
撮影当日、僕はいつものように始発にちかい電車でロケ地に向かった。
池袋で埼京線の下りに乗り換える。
空席が目立つ車内の端にすわり、ぼーっと車窓を眺めていた。
すると視界の片隅にひとりの小さな女の子がはいった。
それが、志田未来だった。
そのときすでに売れっこ子役から女優の階段をのぼりはじめていた彼女。
普通ならば、こんな早朝、誰でもマネージャーの車でロケ地にはいるもの。
それが自然体で早朝の電車にのり、教科書を読みながらロケ地に向かっているのである。まるで通学途中の女子高生のように。
正直おどろいた。
彼女の貴重なひとりの時間を邪魔しないよう、気づかぬふりをしたまま赤羽の駅に着く。
駅前にはロケバスが待機。
そこでその日はじめて、彼女に声をかけた。
「志田さん、おはよう。朝はやいのに電車で来てて驚いたよ」
「あ、一緒の電車だったんですか、気づかなかったです」
すこし恥ずかしそうにうつむいた顔を今でも覚えている。
撮影は荒川の土手。
荒川サイクリングロード。
空は気持ちよく晴れ渡り、彼女の素敵な演技も相まって順調に香盤をこなしてゆく。
撮影の合間に、彼女と話す。
「わたし、はやく結婚したいんです。父と母が理想の夫婦で、そんな夫婦になりたくて。できれば二十歳までの結婚したいんです。そのために今から貯金してるんです!」
当時離婚したショックから立ち直ったばかりの僕には、そのまっすぐさがちょっと眩しすぎて、相づちをうちながら空をみあげた。
「いいね、そういうの。素敵だとおもうよ」
たぶん、そんなかっこつけた返答をしたと思う。
事務所がそんなの許しっこないよなと思いながら。
その仕事以降も、彼女は女優の階段を順調にのぼっていった。
そんな彼女をテレビや映画でみるたびに、あの日のやりとりを思い出していた。
夏空に浮かんだ雲が、太陽の光で溶けていくような感覚で。
そして、2018年9月14日。
志田未来、結婚!のニュースが駆け抜けた。
25歳での結婚。
僕はそのとき、正直にいうと「やっとかよ!」と心の中でつっこんだ。
でも、ちょっと嬉しくなって、「やったな」と心の中でつぶやいた。
少女時代の彼女の人生設計からは5年遅れたけど、彼女はおそらくずっとぶれずに、演じる幸せとはちがう幸せを、思い描いていたのだろう。
まっすぐすぎて眩しすぎるあの瞳で、ずっと。
最後になりますが、
志田未来さま
ご結婚おめでとうございます。
理想とするご両親のような夫婦道を、その伴侶とともに歩んでいってください。
そのまっすぐな瞳のままで。
僕もまた、あなたと一緒に仕事ができるよう、これからも頑張っていきたいと思います。
かしこ
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