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美談に隠されたブラックの温床。 | 小津、黒澤、倉本の怒りは果たして無駄なのか?デンジャラス・デイズを見ながら映像制作の明日を考える。

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怒りは創作の原点

小津安二郎は怒った。

古い桐の箪笥の中に着物が入っていないことに。

それではその箪笥に魂は宿らないと。

それが映る画に魂が宿らないと。

 

黒澤明は怒った。

小道具で用意させた遺書の中身に何も書かれていなかったことに。

それではその遺書に重みがでないと。

それを持つ役者に重みがでないと。

 

倉本聰は怒った。

雪の中を走ってきて扉をあけるシーンなのに扉の前から演技を開始したことに。

それではその演技に嘘がでると。

そんな演技は視聴者に見抜かれると。

 

松坂慶子は我慢した。

寒い冬の中、たらいの中に氷水を満たし、そこに足をつけて我慢した。

ベッドの中で触れ合う足の冷たさに男が欲情すると聴いて。

そのシーンのために足を冷やし続けた。

 

高倉健は我慢した。

腹をすかせた人間が飯を食うシーンで、本当にうまそうに食べるために。

三日間、飯を食うのを我慢した。

そして、そのシーンは伝説となった。

 

これらのエピソードは、果たして美談なのだろうか?

そうではない、こんなのは無駄なこと。

そう切り捨てる風潮が、いまの映像制作の現場にはある。

 

 

 

デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー(字幕版)

 

リドリー・スコットの情熱と無駄

先日、映画ブレードランナーの制作舞台裏を描くドキュメンタリー「デンジャラス・デイズ / メイキング・オブ・ブレードランナー」を見た。

そこに描かれているのは、リドリー・スコットの壮大な無駄への挑戦。

そしてそれに反意をもつ出資者や制作現場の葛藤の日々。 

 

映像制作を生業にしている僕にとっては非常に興味深く見ることができた。

モーションコントロール撮影、コマ撮りを使っての合成。

いまや当たり前に「そう撮ればいい」とわかる解答が、どのように作られてきたか。

それがどれだけ時間やコストの無駄の末にできたイノベーションだったか。

そして、それらの無駄がこの作品以降の映像制作者にどれだけの道筋を示したか。

観客や視聴者にどれほどの夢を与えてきたか。

この作品に対する世界中の評価が、そのすべてを表している。

 

僕自身はこのドキュメンタリーを見ていて「絶対、この現場にはいたくないな」なんて思ったけど、画面の向こう側には見えないものを「すべて無駄」と切り捨てたら進歩なんてないと改めて気づかされた。

 

効率化。

いまや時代の流れにそったスマートな考え方。

確かにそういう思考も大切だ。

その一方で、いまの日本の閉塞感を助長しているのも、この効率化だと個人的には思う。

効率化は、失敗を許さない。

「そんなことやっても無駄でしょ」

「もっと楽して、効率的に数字をかせごうよ」

そんな意見がいたるとこに転がってる。

その結果、すべてが方程式になる。

数字になる。

惰性になる。

そして、数字の持つ強さ、惰性の持つ強さにひとは負ける。

 

効率化の生む弊害、非効率の持つ弊害

「デンジャラス・デイズ」のラスト。

そこにはリドリー・スコットが債権弁護士から撮影の停止を告知され、制作資金がストップされた中、「ブレードランナー」のラストカットの撮影に向かう過程が描かれている。

資本家は資金というリスクをとり、演出家は人生をというリスクをとる。

もはや狂気の沙汰にすぎぬそのラストエピソードにある二つの対立軸から何を感じるかは、おそらくその人の人生の立ち位置によって変化するものだろう。

 

だがこの作品を見て、僕のこころに最後まで残ったのは、イギリス出身のリドリー・スコットの制作手法にハリウッドの撮影現場スタッフが歯向ったということだ。

「従来の制作進行と違うものは受け入れられない」

「こんな無駄は契約違反だ」

彼らはそう声をあげ、マスコミにリークし、ストライキまで敢行し、そして現場を離れた。 

 

彼らの怒りもわかる。

僕だってこんな現場、こんな上司はゴメンだねとケツまくる。 

強要される無駄ほどブラックを生むものはない。 

 

 だからこそ、この問題は難しい。

 効率化の生む惰性と閉塞感。

 非効率の生むブラック。

どちらに舵を切っても闇という中、自分の人生、そして仕事の進め方を模索するしかない。

 

ま、そんな暗中模索な時代を、僕たちは光を求め、生きている。

ブラックな体質から変わらなきゃいけない映像業界が、時代の流れに取り残されることなく、挑戦を許容できる土壌を保ちつづけるために、僕らに何ができるのか。

たぶんだけど、これが今のプロデューサーやディレクターたちに求められる大切な考えだと僕は思う。

 

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