夜に書いたラブレターは出すな。
という有名な格言がありますが、これに類似した広告業界格言として、「夜に考えた企画は出すな」「深夜に浮かんだコピーは見直せ」というものがあります。僕も20年以上前に教わりました。
なにかと夜型になりがちで、またそのスタイルが賞賛される傾向にあった20世紀から21世紀初頭の広告クリエイティブの世界ですが、ようやく時代の流れに沿ってそのタイムコントロールの意識も徐々に変化しているように感じます。
そして実はこの流れが、クリエイティブ作業という解答の見えない、時間の感覚が希薄化しがちな作業の効率化を生んでいるように思います。
1.自律神経の波をクリエイティブに活かす。
朝:交感神経=活動時に活発になる。
夜:副交感神経=休息時に活発になる。
交感神経は理性を優先し、物事を考えたり判断したりすることをスムーズに行うメカニズムで、活動時に活発になります。
一方、副交感神経は、理性よりも情動を優先するメカニズムになっており、休息時に活発になります。
20世紀から21世紀初頭にかけての広告クリエイティブの世界は、このような人間の特性を無視した非常に非効率的な世界でした。
とある代理店では、企画打ち合わせが夕方の18時からに設定されているにも関わらず、打ち合わせ開始が深夜0時過ぎになるとか当たり前にありましたし、撮影や編集作業においても明け方5時までぶっつづけで行うことが普通でした。
当時から「非効率だ」という思いは多くのひとが持っていましたが、それを声にすること=仕事がなくなることを意味するため、そのような理不尽にも耐えざるをえなかったことを思い出します。
これからの21世紀を生きる広告クリエイターは、より時間の効率を意識して作業をすべきだと思います。
クリエイターという生き物はついつい時間の限界まで仕事のことに没頭してしまいがちになりますし、そのような生き方にナルシスティックに酔いしれてしまう傾向がありますが、その結果として自分のワークライフバランスを崩してしまっても誰も助けてくれません。
広告物とは作品ではなく企業から依頼された仕事です。
そして、仕事に必要なのは情動ではなく、理性です。
もちろん、物をつくりたいというリビドは持っていて当然ですが、仕事を形にするのは理性です。あなた個人の情動で動くクライアントは、この世にはほぼいないと思うべきと思います。
2.広告とはラブレターである。
広告とはラブレターである。
by ダン・ケネディ(プロフィール|ダン・ケネディ日本公式サイト)
広告とはラブレターである。ということは、かなり昔から言われています。
世界で最も高額の料金をチャージできるコピーライターのひとりであり、ダイレクトレスポンスマーケティングの権威でもあるダン・ケネディもそう言っていますが、日本でもコピーライターがカウンターカルチャーの担い手として花形だった1980年代後半から多少の自画自賛風味な意味合いを持ちながら、いまなお言われ続けています。
時代は変わった!
もう広告はラブレターじゃない!
なんて言う方もいらっしゃいますが、僕はそうとは思えない。
広告はいまでもラブレターだと固く信じています。
広告の難しいところは、そのラブレターの対象がひとりではないところです。
ひとりは、メディアの向こう側にいる不特定多数のユーザー。
そしてもうひとりは、広告制作主=クライアントです。
ひとりの女性を口説き落とすラブレターでさえ難しいのに、その女性の母親まで口説き落とすラブレターを書かねばならない。
それが広告クリエイティブのラブレターです。
結婚の挨拶にいくとわかりますが、恋人とはちがって、あなたの側面を多方向から質問してきます。
「好きです」「愛しています」「誰よりも」「100年後も」「必ず幸せにします」なんて抽象的で情動にあふれた言葉もすこしはワークしますが、そんなものはミジンコよりも戦闘力が低いです。
そんな情動にあふれた言葉を現実のものにするために「仕事はなにをしているか」「仕事の将来性は」「どのようなキャリアビジョンを持っているか」「そのために今、なにを努力しているか」など、極めて理性的で現実的な考えやフローを求められます。
当たり前ですよね。
だって、自分の可愛い娘をお嫁にだすんです。
やる気や愛情なんて目に見えないものしか誇れない相手に全てを賭ける親なんていません。
そんな相手にラブレターを贈るのですから、どのようなロジックでコピーと画を構成し、最後の情動の言葉がワークするようなフローをつくるかという理性的な考え方が大切になってくるのです。
僕は情動そのものを否定はしません。
が、その情動を活かすもころすも理性的な流れ次第だと思っています。
そのためにも、交感神経が活発にはたらく朝の時間帯を上手に活用していくことが必要なのです。
3.朝活している小説家
早起きして朝の時間を有効に活用している有名な起業家やアーティストは古今東西たくさんいます。
広告クリエイターでも朝活しているひとは、汐留さんのあの事件以降、最近増加傾向にあると思いますが、小説家には朝方に執筆活動をしている方が昔から多くみられます。
その中から特に有名どころの起床時間に関する言葉を下記に列記していきます。
村上春樹=4:00起き
だいたい朝の四時ごろ起きるんだけど、三時に起きたり二時半におきたりしても、そのまま仕事をしてしまう。
浅田次郎=夏5:00冬6:00起き
私は、同業者には珍しい朝型人間である。この原稿を書いているのは午前六時三十分、ちなみに起床は冬ならば六時、夏は五時ときまっており、しかも起床と同時に完全覚醒するので、ただちに仕事にとりかかる。
原稿執筆はほぼ午前中におえ、午後は読書三昧となる。
アーネスト・ヘミングウェイ=5:30起き前の晩にどんなに深酒しても、朝5時半頃に起床した。早朝は誰にも邪魔されないし、ひんやりとした朝は執筆しているうちに体が温まる。
まとめ
→人生の主導権を取り戻せ。
僕もそうですが、広告クリエイターという人種は仕事に没頭しすぎるあまり、生活というものをないがしろにしてしまうひとが本当に多いと思います。
その結果、仕事では評価をたかめて一見幸せそうにみえても、その内実は自分の人生の主導権を仕事に奪われ、自らのライフビジョンを喪失してしまう。
キャリアビジョンではないですよ、ライフビジョンです。
自分の人生をどう生きるか。
仕事やキャリアはその一部でしかありません。
結婚して子どもができたら、朝という時間帯はとても大切になってくる。
故スティーブ・ジョブズも毎朝6時に起床し、子どもたちが起きるまでの静かな時間を大切にしていたと言います。
振り返ってみると、20世紀の日本の広告クリエイティブは夜につくられたものでした。
朝は寝坊し、昼前に出社。
ねぼけながら適当にクライアントからのオーダーを営業からヒアリングして、夕方になると徐々に焦りがつのりついつい声をあらげて「俺たちクリエイティブは寝てないんだぞ」などと某牛乳事件みたいなセリフを日常茶飯事で発し、夜は飲み屋でプロダクションにタダ飯タダ酒をなかば強要しながら、「お!それいいね!」なんて軽いクリエイティブ談義からノリで企画書をつくって、「これこそが今のターゲットが求めているものなんです」などと、なんのエビデンスもなく主張していた時代。
いまはさすがにこのようなことは少なくなりましたが、いまでも打ち合わせなどのミーティングを午後イチ以降にしたがるクリエイティブスタッフは多いです。というか多すぎます。
しかし、21世紀の日本の広告クリエイティブは朝につくられるように変化が加速していきます。
この流れは間違いない。それに対応できないものは去りゆくのみです。
夜の酒場から文化が生まれるなんてものは、18世紀から20世紀のおとぎ話でしかないのです。
いま、広告業界、とりわけプロダクションは極度の人材不足の状況です。
それはキャリアビジョンが見えないのと同時に、時間の感覚が圧倒的におかしいからです。
時間泥棒には、もうみんなウンザリなんですよ。
どれだけ仕事が増えようが、スタープレイヤーが生まれようが、それを実際に制作進行する層が「明るい未来」を想像できない業界に、未来はありません。
そんな広告業界の危機をすくう第一歩が、クリエイターの朝活です。
クリエイターが朝から活動すれば、現状歪んでいる多くのサイクルが正常化するのです。
そして、朝活の流れそのものが、広告クリエイターたちがどこかに置き忘れてきていた「人生の主導権」を自らの手に取りもどすことにもつながると思います。
地球も、仕事も、人生も、朝日とともに目が覚める。
そんな当たり前の世界が、21世紀の広告業界には必要なのです。
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