お伊勢参りと熊野詣
「どこのテレビ局かね」
「東京です」
「ほぅ、珍しい」
馬越峠の山頂を目指す途中、道端で休む地元のおじさん二人と声を交わす。
体感での勾配角度が10パーセントを超える山道が延々と続き、僕の返事も少しいい加減だ。本当はテレビ局ではないので申し訳ないと思いつつ、余裕のない自分の体力が悔しい。
伊勢神宮から伸びる、熊野古道の伊勢路は、他の古道に比べて色鮮やかだ。
そして、その鮮やかさが、ふとした癒しになり気持ちが救われる。江戸時代に「お伊勢詣りのついでに熊野へ」と盛んになったこの道だが、たぶんそんな「ちょっとしたハッピー」な気分を人々が求めたんじゃないかな、なんて思う。
山の頂上には、これまたどでかい大岩がある。
どれくらいでかいかというと、高さ20m以上、広さはおおよそ50畳。
「左周りの方が近いよ」と言うおじさんたちのアドバイスに従って、巨岩を左周りに迂回して山頂を目指すが、登山未経験だったこの頃の自分にとっては正直、道なき道。両手を使い、滑りに気をつけながら、一歩一歩確実に登った。
忍者のルーツ説もある役小角
山頂に登ると、眼下には尾鷲湾が広がる。
下から吹き上げてくる雲。
朝の言葉を交わす、つがいのツバメが空を舞う。
そして、遥か向こうには海のような果無山脈が広がる。
僕はひと休みすると、片隅にあるこの峠を開いたという役小角の祠に近づき、そっと手をあわせた。「小角さん、ここは空が高いね」
そのとき、気のせいか祠の中で光が揺れた気がした。
そう、それはきっと気のせいなんだけど、なんか嬉しくて、僕はちょっと笑ってしまった。
「よう、登ってきたな」って小角さんに褒められたような気がしたからね。
この景色の向こうに、イザナミの墓である花の窟があり、その更に先に熊野がある。
アマテラスからイザナミ、そして熊野へ。
「この伊勢路もまた母胎回帰の道なのかもしれないな」と、尾鷲の街の飯屋でご当地ドリンクの「忍ジャーエール」を飲みながら、コピーライターの藤原さんと笑いあった。
ちょっと辛口な喉越しとダジャレのキレで朝からの疲れも吹き飛ぶ。
一説によると忍者のルーツとも言われている役小角さんも、このダジャレにはきっと苦笑いして喜んでいるだろう。
「誰うまだよっ」ってね。
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