こうみやの特撰牛重
先日の撮影の日のこと。
晴天予定の撮影だった。
しかし蓋を開けてみれば二日とも曇天。
しかも二日目は雨になった。
ただでさえきっつきつの香盤なのに雨まで降ってきたら、収まるものも収まらない。
それが撮影ってもんだ。
僕は基本、時間通りに進まないことを好まない。
時間はコストと直結するし、なにより予定通りに飯を食えない現場は良くない現場だ。
しかし、この日は押しに押した。
ずぶ濡れになりながらロケバスに転がりこみ、ようやく昼飯にありつく。
今日のロケ弁は「こうみや」の特撰牛重。
「ありがてえ…こういうガッツリとしながら繊細さを忘れないもの、大好きなんだよ」
そんなことを思いながら弁当をとり、フタを開けた。
ロケ弁の思い出
思いおこせば25年前。
テレビのADをやってた頃。
隔週でのスタジオ撮影のときに、一番下っ端の俺は弁当を食う時間すら与えられなかった。
バラエティ番組の二本撮りになると収録時間は朝の6時から深夜0時まで及ぶ。
出演者や観客が帰り、物撮りをすませ、すべての撮影が終わった後、ひとりダッシュでタレント控え室の後片付けに向かう。
そこで残された食べかけの津多屋の弁当を30秒で流し込み、またダッシュで戻る。
それでも遅い!と叱られる。
そんな腐った職場、ほんとにあるんだ。
だから俺はそれを反面教師に、演出になって以降、飯を食うことを大切にしてきた。
が、このありさまだ。
二時間も飯押ししてしまって申し訳ない。
話が逸れた。
弁当の話に戻そう。
うまい牛そぼろを堪能する
まずは、品良く味付けされた柔らかくて大ぶりな牛肉を、タレの染み込んだ飯とかっこむ。
うまい。
出汁の味わいが牛肉の旨味をうまい具合に引き出し、身体が一気に持って行かれる。
雨の中の撮影で弱った身体に糖分とアミノ酸がガツンと響く。
たまらないね、これ。
これまた上品な出汁が染みた椎茸と人参をパクつきながら一休みし、好物のそぼろの攻略にはいる。
うまいそぼろって実はなかなかお目にかかれない。
パサパサしてるか、濃い味付けでごまかしているか。
基本そのふたつのパターンが多い。
だけど、ここの牛そぼろはうまいんよ。
しっとりとしていて食感を保ちながら、肉の味わいがきちんと表現できている。
こういう弁当を食うとチカラが湧いてくるんだ。
身体の奥底から「まだやれる!」ってチカラが。
ほんと、ありがてえ…
NO RAIN,NO RAINBOW.
そんな雨の中、ロケバスは次のロケ場所へ向かう。
出演者、そしてスタッフ一同、談笑しながら弁当をパクついている。
悪くない雰囲気だ。
その笑い声が、俺に、もっとチカラをくれる。
だから俺は、バスの中でコンテを描きはじめた。
この想定外の雨に対応すべく、雨と夜のシーンを描きはじめた。
黒澤は雨のシーンに、ひとの罪や憎しみを洗い流すという意味を込めた。
俺にはこの雨に意味を持たせられるだろうか。
そう自分に問いかける。
そして揺れるロケバスの中、コンテを描き続けた。
NO RAIN,NO RAINBOW.
雨が降れば、虹がかかる。
人生という物語にも、虹がかかる。
だから雨が降ると、ひとは歌いたくなるんだ。
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