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【 体験実話 】男の不妊治療物語 第三話 | 精子特性分析二回目「精子自動性指数の壁」

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男の不妊治療物語 第一話 | 精子特性分析一回目「卵子に到達できない精子」からお読みください。)

 

1.精子自動性指数の壁

年が明けた2017年1月中旬。

僕の二回目の精子検査が行われた。

精子検査に持参する精子の採取は、クリニック内にある専用個室を使用するか、自宅採取しタオルに包んで一時間以内にクリニックに提出するというふたつの手段から選択できるのだが、僕は自宅採取を選択した。

 

「うーん、旦那さん、なんかありましたか?」

担当医師が眉根をひそめて検査結果の用紙をみている。

「え、特に変わったことはありませんでしたが」

「いや、前回よりもかなり悪い結果がでているんですよ。ほとんど動いていないと言ってもいいくらい」

妻がをちらっと横目で僕をみる。

心配しているのか。

「えーっと…ちょっと最近仕事が忙しくて寝不足気味かもしれません…」

思わず口ごもる。

実際、前日はかなり立て込んでいたので睡眠時間は4時間くらいだ。

 

「うーん、それだけではこんな結果でないと思うんですがね」

そう言うと医師は用紙をテーブルに置いた。

「この精子自動性指数ってのがありますよね」

「はい」

「これが80以上が基準値となっているのですが、旦那さんの場合、12しかないんですよ」

「・・・・・」

「しかもその他の数値も驚くほど低い。これはちょっとしばらく間をおいてもう一度検査をしましょう」

 

またダメか。

正月明けの浮かれ気分を引きずっていた僕は、この数字が示す冷たさに厳しい現実を感じざるをえなかった。

  

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二回目の精子検査結果。※転載厳禁

 

2.治療後の天丼ランチ

その日の帰りは夫婦で吉祥寺ランチをすることにした。

絶望的な検査結果に自分の生存理由すら否定されたような気分だったが、エレベーターで妻に「次までにいろいろ改善すれば大丈夫よ」と言われてちょっと救われた。

そう。「俺、なにも準備してなかったじゃん」て。

女性の高度不妊治療は、葉酸などのサプリからホルモン剤までさまざまなものを摂取し、食事内容にも気をつかい、日々妊娠にむけて準備しているものだが、男のそれはあまり聞かない。

つか、男はだいたい何もしない奴が多いのだ。たぶん…

 

「男もやっぱサプリとか食事とか気をつけたほうがいいのかな」

行列の末にやっとありつけた特大天丼を頬張りながら妻にたずねた。

「葉酸はやっぱりいいとかネットには書いてあるね」

「ふむふむ、亜鉛もいいって聞くけどそれは精子の量とか濃さに効くみたいなんだよな」

「いいって噂のは全部試してみたら?マツキヨで帰りに買ってかえろ」

「うんうん」

それにしてもここの天丼はうまい。

天ぷらはサクッと揚がっていて軽いからどんどん口に運んでしまう。

この軽さ、たぶんカロリーゼロだ。きっと。

「ねえ、ちゃんと噛んでる?」

「噛んでるよ。ねえ、穴子食べないなら俺の海苔と交換しようよ」

「食べるに決まってるじゃない、穴子はメインだから後回しなの」

 

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その時食べた天丼の写真。雑でごめんね。本当に美味しいんだよ。

 

3. 生活習慣の改善と夫婦の会話

 その晩から僕たちは普段の食事にもそれまで以上に気をつかうようになった。

特に葉酸を大量に摂取するために、ほうれん草をつかったレシピを数多くつくるようになった。調理は主に僕の担当なんだけど、僕は基本サプリとかあまり信用していない。だから葉酸料理の開発にのりだした。

定番のお浸しからはじまり、お味噌汁、オムレツ、パスタ、バターソテー、胡麻和え。

数えてもキリがないくらいのほうれん草レシピを毎日つくった。そして毎日食った。

 

そして一緒に散歩する機会を増やした。 

結婚するまでは運動バリバリやってた僕だったが、結婚後はさぼりすぎてメタボになりつつあったため、「運動しないものに運動する精子は宿らない」なんてアホなことを言っては運動をするようになった。

それくらい、キチンと動く精子に憧れてたんだ。マジな話で。

 

散歩しながらいろんなことを話し合った。

僕は仕事の悩みやこれからやりたいこと。彼女は体調の変化や職場の話、趣味のマラソン、ヨガ教室の生徒さんのことなど、ほんとくだらないことをいっぱい話し合った。

僕たち夫婦は他の夫婦とくらべても会話が多いほうだとおもうけど、それでもそれ以上話す必要を感じた。そのくらいホルモン剤を飲んでいる時期の彼女のメンタルは不安定だった。

だって突然泣いたりするんだよ、訳もなく。

心配になるでしょ、当たり前にさ。

 

ま、そんな日々を送るうちに二月はあっという間に過ぎ去り、梅の花が咲きはじめ、僕は三回目の精子検査を迎えることになったんだ。

 

(つづく)

 

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