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【 体験実話 】失恋ダイエット 第六話 | 長野、安曇野。標高2,857メートルの常念岳に僕は重たいものを全て置いてきた

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 【 体験実話 】失恋ダイエット 第一話 からお読みください。)

 

いらないもの

重たいもの

ここに置いて行こう

by ELLEGARDEN(細美 武士)

 

1.北アルプスの紅葉は別格に美しい

その数日後、僕は友人三人と四人で北アルプスの常念岳を登った。

 

標高2,857メートル。北アルプスの入門篇とも言われる常念岳。

一緒に登った松本在住の友人夫妻によると、近辺の小学生が課外授業で登る山だということだが、登山初心者のおっさんである僕には心底きつかった。友人たちのサポートなしでは決して登ることなどできなかったと、振り返って思う。

つか、これ、ほんとに小学生が登れるのかよ!

と思うくらい僕にとっては厳しく苦しい登山行だった。

 

紅葉が最盛期を迎える九月末の北アルプス。

そんな自然の美しさに最初は楽しく登りはじめるも、登っても登っても見えぬ山頂に疲れが心にも降り積もっていく。

「もう無理だ、これ以上はもう足が動かない」

口には出さなかったが何度もそう思った。

失恋ダイエットを開始して二ヶ月。普段走りはじめたと言っても、所詮は四十半ばの運動不足のおっさんだ。基本的な体力の低さが、重いザックを背負った山道では如実に現れる。

しかしそれでも足を動かさねばならない。

自分の足以外に、この局面を変える手段などどこにもないのだから。

 

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朝の川の水で顔を洗う。シャキッとしたな

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初めての登山が北アルプスなんてふざけてるのはわかってる。でも行ってよかったよ

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前半はキレイな紅葉の中を抜けていく。最高に気持ちいい

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川辺で食べた特製おにぎり。世界で一番うまかった

 

 

2.背負ってるのはザックだけじゃない

午後三時を周り、陽が傾きを増してゆく。

その速度が速くなる。

このままでは日が暮れてしまう。

そんな焦りにせかされるよう、疲れ果てたこころと身体を奮いたたせる。

負けたくない、負けたくない、負けたくない。

今日中に山頂へ到達するのはもう無理なのはわかったけど、せめて北アルプスに沈む夕陽だけはこの目でみたい。

だからなのか。

「ちくしょう、ちくしょう」って言いながら登っていた。

それを後ろで聴いていた友人たちが「あついねー、青春だ」なんて囃し立てる。

悔しいから後ろを振り返ってこう言い返した。

「一歩も動けない、そう思ってからが本当の勝負だろ?」

山道に響く笑い声。

 

みんなわかってくれている。

俺が背負ってるのはこの赤いザックだけじゃないってことを。

婚約破棄の傷はなかなか癒えない。

彼女を傷つけた罪悪感もまったくなくならない。

他にもいっぱい色んないらないもの、重たいものを背負ってきている。

それらすべてを、みんなここに置きにきた。

この常念という山に置きに来た。

だからまだ動けるよ、まだ行けるよ。

足取りはおぼつかない。一歩一歩の歩幅なんて10センチくらいしかない。

それでも登る。登れる。

ひとりでは登れないかもだけど、みんながいるから登れるよ。

ありがと。マジで。

 

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胸突八丁。苦しさのクライマックスはここから始まる。

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ベンチでくたばる。マジグロッキー

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この日8回目の休憩タイム。もう本当に一歩も動けない、そう思った。

 

 

3.槍が見えた

PM3:40。

やっと開けた視界。

登山道に差し込むその西日は、黄金色にまばゆく光り輝く。

最後の力を振り絞って歩きつづけると視界はさらに広がり、空のむこうに北アルプスの象徴、槍ヶ岳が見えた。

 

「槍!槍だよ!」

思わず大声で叫んだ。

叫びながら涙があふれた。

遠くに見えた槍ヶ岳の山頂が、逆光の中、脳内でクローズアップされる。

標識のシルエットが黒い十字架に見える。

そんな不可思議な光景に救われた。

こういうの嫌いだけど、ほんの少しだけ神様を近くに感じたんだ。

友人たちはそれを見て、笑いながら、もらい泣きしてくれた。

それを見てまた泣いた。

うれしさと悔しさと哀しみと喜びが複雑に混じり合う中で、束の間の達成感に酔いしれた。

 

僕はこの時の光景を、抱いた感情を、きっと一生忘れない。

涙と一緒に、僕のこころに巣食っていたクソッタレな自己憐憫までキレイさっぱり流れ落ちた。

いま思えば、この瞬間、僕は生まれ変わった。

こころに抱えた痛みの重さに足を止めるのではなく、そんなもの全部ひっくるめて担いでいく覚悟というか気概を持てた、そんな気がする。

 

ま、まだ山小屋に着いただけで、山頂まで登ってないんだけどねw

 

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俺たちのゴールデンロードがゴールへ導いてくれた

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足をとめた瞬間、涙あふれた。最高だったな、まじ

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この光景が目の中に焼き付いて、今でも離れない。常念、愛してる

 

 

(つづく)