(【 体験実話 】失恋ダイエット 第一話 からお読みください。)
今日、カツ丼くったからね、俺たちも
by 松木安太郎
1.ダイエット開始時期の食習慣
このダイエットをしている間、僕の主食はチクワと餃子とレバニラ炒め(ライス抜き)、そして納豆だった。
毎朝起きると、その香りが満腹感を感じさせるといわれているグレープフルーツのジュースを飲み、走りにでかけ、腹が減るとチクワをおかずに納豆をかっこみ、エネルギーが足りないとかんじるとレバニラ炒めをおかずに餃子を食べる。
それでも腹が減ったら水を飲む。毎日2リットルは飲む。
そんな毎日。
塩分?
なにそれ?
そんなの気にして痩せられるの?
って気持ちだったが、実際、塩分は水分を溜め込むから、塩分の多い食べ物は体重減少には向かないらしい。
だが、運動していると塩分なんてあっという間に抜けていくから関係ない。
そう勝手に結論付けた。
そして結果がついてきているのだから、意外と間違ってないのかもしれないとも思う。
だから来る日も来る日も、チクワ餃子レバニラ納豆。
たまに贅沢してベビーチーズをつまみに一杯。
いま考えるとかなり危ない食生活を、この二ヶ月すごしてきていた。
良い子は決して真似しちゃいけない。
2.ミニカツ丼を食べて味わう罪悪感
そんなある日のこと。
イオンで夕飯の買い物をしていたら呼び止められた。
振り返ると懐かしいあの笑顔。
「ねえ、ずいぶんとお見限りじゃない」
黄色と白の柔らかなストールで身をくるんだその女は俺にそう語りかけた。
「もう私のこと、興味なくなったの」
緑色の三つ葉型のアクセサリーが胸元でそよぐ。
忘れるわけない。
おまえは俺の最高の相棒だった。
おい!
カツ丼!
ダイエットを開始して二ヶ月弱。おまえを想わなかったときは一瞬もなかった。
ジューシーな肉をくるむそのさっくりとした衣。ふんわり卵を甘みあふれる出汁で包んで、ホカホカの白米を濃厚に彩る。そんなお前の姿を、俺が忘れるわけがないじゃないか!
こころの中の叫びとは裏腹に、俺はそ知らぬ顔をしてカツ丼の前を離れる。
「ごめんな。もう、あの頃のふたりには戻れないんだ。おまえの愛情に、僕は甘え過ぎていたんだよ」
そうつぶやくと、俺はチクワを抱えてレジの列にならぶ。
あいつの声はもう聴こえない。
しかし、脳裏に浮かぶ、あいつの最後の哀しげな顔。フラッシュバックする。
出汁しみわたる、ロースカツ丼ミニ
445kcal
えっ!
445kcal!
お、おまえも俺にあうために、そんなにダイエットしていたのか。
湧き上がる愛情。
もう誰にも俺を止められない。
列を飛び出した俺は、あいつを迎えにいく。
そして、俺は棚に最後に残されたラス1のミニカツ丼と抱き合った。
「カツ丼よ、アイシテル」
カツ丼を食い終えると、僕は夜ランにでかけた。
記録によれば、この夜は10キロ走ったと残っている。
やはりカツ丼を食べてしまったという罪悪感が重かったのだろうか。
その日の失恋ダイエット板には、言い訳じみた上から目線レスが書き残されている。
はずかしい限りだ。
(引用元:失恋ダイエット 俺が自分で書き込んだレス)
(つづく)