カレーが食べたくなる日
今日の昼飯はカレーが食べたい。
そう思うことがたまにある。
ココイチもいいし、すき家も捨て難い。
想像しただけでスパイシーなカレーの香りが脳髄をくすぐる。
カレーくいてーなあ。
しかし、今日はナンが食べたい。
穀物の香りがバターの甘くて芳醇な香りに包まれている、あの極上のナンが。
そんなことを通勤電車の中で考えていると、車窓から流れる景色がすべてカレー色に染まっていく。
そんな日が、人生にはたまにある。
女性客でいっぱいのインドカレー店、マンダラ2nd
13時。
午前中の編集がひと段落したところで「今日はインドカレーを食べにいこう」とスタッフに提案し、店に向かう。
目的の店はマンダラ2nd。
神保町につづいてカレー激戦区の新橋界隈において女性に圧倒的に支持されている人気店だ。
店に着くとすこしだけ行列に並び、席に通される。
店内は女性客と近隣のビジネスマンで満席だ。
席に着き、ランチカレーを発注すると、まもなくナンが運ばれてくる。
この香ばしい香り。
これだよ、これ。
これを待ってた。
熱々のナンを指で引きちぎり口に運ぶ。
もちもちの食感にかぶさるように芳醇な穀物の香りが口中に一瞬で広がる。
うまい…うますぎるぜ、ここのナンは…
ほどなく運ばれてきたカレーはチキンバター。
ランチカレーでも数種類のカレーを選べるが、やはり定番のチキンバターは外せない。
そしてトマトの風味が効いたそのカレーに、極上のナンをつけてパクつく。
カレーとナン。
ふたつの相対する食物が、口の中でひとつになる。
香りが、旨味が、円を描く。
マンダラとユング
店名の由来である曼荼羅。
サンスクリット語で「本質を有する」の意。
それは円を表現する形容詞から派生し、完全や本質を表す。
フロイトから決別した心理学者のユングはそこに救いを求めた。
そして、曼荼羅の描き出す円形が分裂しようとするこころを癒し、自己肯定へ導くと捉えた。
そんな講釈を若いスタッフに垂れ流しながら、最後の一滴までナンですくい取って完食する。
「つまりだな、ここのカレーは味覚の円を描くことで幸せを得るカレーな訳よ」
「なるほど!」
「なるほどじゃねーよ、だれうまだろ!」
くだらない笑いがカレーの香りに滲んで消える。
そんなランチタイムも悪くない。
きっと頭でっかちなユングもそう思ってる。
「人間はカレーの匂いには勝てやしないさ」ってね。