テレビ広告のクリエイターは長年ウェブメディアの広告を下にみていた。
ウェブ広告?チラシだろ、そんなの?
そのような偏見をもつクリエイターは今でも根強く残っている。
さて、そんな中、2018年度にはインターネット広告費用がテレビ広告費用を抜き、トップメディアになると予想されている。
2017年度の現状は電通報によると以下のとおりだ。
日本の広告費は、マスコミ4媒体の広告費とインターネット広告費、そしてプロモーションメディア広告費に大別できます。総広告費におけるそれぞれの構成比は、マスコミ4媒体が43.7%、インターネットが23.6%、プロモーションメディアが32.7%となっています。
ここ数年、マスコミ4媒体とプロモーションメディアの構成比が次第に低下する一方、14年以来2桁成長を続けるインターネット広告の構成比は年々高まっており、17年には日本の広告費全体の4分の1弱をインターネット広告が占めるに至りました。
(引用:「2017年 日本の広告費」解説―止まらないインターネット広告費の伸長で6年連続のプラス成長 | ウェブ電通報)
このような現状でも、テレビ広告クリエイターはウェブメディアを小馬鹿にしつづけていて良いのだろうか?
もしかしたら、「いま僕らが良しとしているさまざまな広告文法がもはや時代の遺物になりかけているのかもしれない」と、危機感を抱く必要があるのではないだろうか。
いや、だろうかではない。
持たなくてはならないのである。
1.テレビ広告の基本的な文法
→恐怖訴求からベネフィットへのフローはテレビもウェブも一緒
テレビ広告にはさまざまな文法があるが、根底に流れているものは「恐怖訴求」である。
「こんな危険がありますが、この商品なら解消できます」
「まだそんなことに消耗してるの?もっと楽にできますよ」
「みんなこんな素敵な生活を送っていますよ、あなたはどうですか?」
などなど、言い方はいろいろだが、そのコミュニケーションの根底には現状否定が流れている。そして、それに追い打ちをかける意味合いとして、その商品なりサービスを利用したひとが享受できる明るい未来(ベネフィットといいます)を提示する。
歴史をふりかえると、広告とは「他国の脅威を自国民に告知することで一体感を生み、戦意を高める」ために古代ローマ以前から使用されてきた。よって、「恐怖訴求」が基本に据えられているのは至極当然のことでもある。いわゆる「啓蒙」だ。
だが啓蒙ぽさが表にですぎると、今の時代は嫌われてしまうので、いかにして啓蒙ぽさを打ち消しながら広告表現をつくるかということに、広告業界は知恵を使ってきている。
ここまではテレビ広告もブログなどのウェブメディアも文法としてはだいたい一緒だ。
テレビ広告では「スライスオブライフ(生活の切り抜き)」といわれるものが、ブログメディアでは著者の実体験として描かれ、最後にベネフィットが提示される。
ブログメディアやアフィリエイトサイト界隈で人気なものに、ジャパネットタカタの広告映像の文法があるが、これも別段新しいものではなく、ターゲットの心象に刺さるベネフィットをこれでもかとみせるやり方だ。
2.ウェブメディアの文法をテレビ広告に輸入する。
→まずは結論からはじめよ。
→バンパー広告はアフィリエイトサイトの設計から学べる。
僕がブログをはじめるにあたり諸々勉強をした際、インパクトを覚えたのが、「起承転結」ではなく「結、起承転結」で書け!という内容の記事だった。
なので、当然この記事も結論から書いている。
そしていまは各論その2を書いている状況だ。
なぜウェブメディアは結論からはじめるのか。
それは離脱率が速いからである。
それへの対応としてこのような文法が生まれた。
テレビ広告も見られなくなって久しくなっているが、このような対応を現実的に落とし込んでいるクリエイティブは、果たしてどれだけあるだろうか?
「ウェブとテレビは違うんだよ」
そう考えるクリエイターも多い。
が、果たしてその論拠はどこにあるのだろうか。
情報過多に疲弊しているユーザーの嗜好を無視し、従来の手法なり文法なりにあぐらをかいているだけじゃないのか?
2-1海外の広告賞を受賞する文法はもう古い?
ここ20年ばかりカンヌをはじめ国内海外問わずして「これぞクリエイティブの真骨頂」と持て囃されている文法として「起承を謎めかせ、転のコピーで一気に商品やサービスに落とし込むことこそシャレオツなクリエイティブ」というものがある。
実際に数多くの賞がそのような作品に与えられているし、受賞した者はスタープレイヤーとして華々しく、そのキャリアを重ねてゆく。故に、それに憧れ、目指すものも後をたたない現状がいまでもある。
このようなスタープレイヤーの方々が危惧する内容に「クリエイティブの衰退」というものがある。
実際、そのようなワードをインタビュー記事でもみかけるし、飲み屋ででかい声で語る広告マンが隣席にいることも少なくない。
ところで彼らがいう「クリエイティブの衰退」とは一体なんだろう。
テレビ広告はこうあるべしという固定概念。
極論で言えば「賞取りこそがクリエイティブ」ということだろうが、それはちょっと横柄すぎやしないだろうか。
業界はともかくとして、視聴者を、そしてクライアントをなめている。
「現状維持は後退」と心得よ。
未完成という自覚があれば、前進を続けられる。by ウォルト・ディズニー
四半世紀以上使い古された文法を良しとする、その精神性こそが、もはや衰退の序章なのだ。
「お!こんな落とし方できたか!」などの驚きやエンターテイメント自体が、実際は業界以外の人間にとって砂の城なのだ。誰のこころにも残らない。
実際に最近バズっていたり評価されているウェブ動画やユーチューバーの文法はこれに準じていない。
まずは結論か、またはそれを想起させるイントロからはじまり、各論を攻略してゆく。
その過程をどうエンタメに落としこむかが、企画や演出の腕のみせどころであって、コンテクストのフロー自体は結起承転結に変化してきている。
「そんなの15秒や30秒じゃ表現できない」
こんなクリエイティブのお約束の泣き言すら、時代の流れにのみこまれつつあるのだ。
2-2.バンパー広告への対応が今後をわける
2016年にGoogleがYouTubeへ導入した6秒広告動画=バンパー広告への対応も従来のテレビ広告のクリエイティブはいま一歩出遅れている感がいなめない。
Googleはバンパー広告のポイントのひとつとして「6 秒という短い時間に合わせた One Message in One Creative が効果的 」と定義しているが、これも非常に曖昧な定義だ。
現状、バンパーの見せ方としては
1.ベネフィットのみで表現
2.機能のみで表現
3.キャッチーなフック映像のみで表現
4.1-3に商品またはサービス告知を2秒ほど混合して表現
の4つのフローが主流をしめている。
特に3のキャッチーなフック映像のみを数タイプ作成し、その展開でみせてゆく手法は、従来の広告クリエイティブに準ずる考え方であり、比較的受け入れられている。
「テレビ CM だけでは、積極的にデジタルを活用する 20 〜 30 代層には届きません。デジタルに関してはチームの若いメンバーが詳しく、何よりもターゲットと同世代です。そこで、一定の条件をつけつつ、権限と予算を移譲して自由な発想で取り組んでもらいました。新たな施策については失敗しても構わない。チャレンジなくしては成功もないからです」
このように、デジタルネイティブが主流になればなるほど、広告物という映像物はその文法について変化を求められることがわかる。そして、そこにはTV広告のクリエイティブたちが避けて逃げてきたPDCA(Plan/Do/Check/Act)というお目付け役がついてまわる。
「物が売れなかったのは商品のせい」
なんて言い逃れも、もうできないのだ。
2-3.バンパー広告の文法はアフィリエイトサイトから学べる
個人的に思うのは、このような短尺の広告展開に関しては、アフィリエイトサイトの方が現実的に一歩先んでていると実感する。
アフィリエイト界の中で一番の理論家として名高いアクセル氏は、商標サイトをつくる際に下記のようなアプローチでサイトを設計している。
(アクセル氏の許可を得て、下の図解記事を引用させていただいています。)
ペルソナとは、CM業界でいうところのターゲットのこと。
テレビ広告の世界ではそのターゲットをかなり広め=曖昧に設定しているが、ウェブの世界では異なる。ターゲット毎にことなる悩みを導入に用い、商品やサービスに落とし込んでゆく文法が、バンパー広告ならば非常に効果的にワークする。
つまりは恐怖訴求の導入部分を多様化することで、より多くのユーザーの悩みにタッチすることが可能となり、コンバージョン率があがるということだ。
アクセル氏のアフィリエイトサイト、実際はさらに細分化されていて、このようにターゲット毎の悩みへのサジェストまで複数層に分岐させ、マインドマップ的に潜在ユーザーの取りこぼしがないように設計されている。
ウェブ広告、そしてバンパー広告をつくっている現在のクリエイティブに、このような発想を僕はみたことがない。
そして思った。
このアプローチの仕方、いまのウェブ広告やテレビ広告にたずさわっている多くのクリエイターがもっと意識すべきアプローチ=文法だと。
感覚的なもの。センスを感じるもの。インパクトのあるもの。いろいろあるだろう。
だが、6秒という短尺の中での広告表現は、つきつめると「言葉の力でお悩み解決」しかない。
それをどのようにロジカルに組み立て、表現するかが、今後の大きな課題だ。
クライアントにもユーザーにもメリットのあるバンパー広告とは、今後そのように進化していくと、僕は固く信じる。
まとめ
ここまでテレビ広告に関わるクリエイティブの危機感のなさについて語ってきた。
4大メディアには一日の長があり、多くの広告論が蓄積されてきているが、ウェブメディアの方ではその方法論や考え方を貪欲に吸収し、さらなる高みを目指している。
ここで一度、未来を想像してみてほしい。
テレビ広告がGoogleなどの検索サイトと連動し、セグメントにあわせた配信に切り替わる未来がほどなくやってくることを。
いまやスマホも含めたモバイル端末の広告がすべてそのように連動していることと同じことが、まもなくテレビにもやってくる。
そのとき、従来の手法や文法しかしらないクリエイターは座して死ぬ。
その覚悟があるのなら、従来通りのやりかたでやっていくのもいいだろう。
だが、僕はなんとしても生き残りたい。
なんせ48歳にもなったいま、ゼロ歳児の赤子を抱えているのだ。
最低でもあと20年。赤子が成人するまでは死に物狂いで喰いつなぐ。
そのために、いまから僕ができること。
それがウェブメディアの文法を、広告映像の企画制作に導入し、従来の手法で勝ち組だったクリエイターたちから仕事を奪うこと。そして、これから伸びてくる若手たちと価値観を共有し、新たな文法を模索すること。
それしかないと、賞取りとは無縁で終わった一介のしがないCMディレクターは思うのである。
最後に、いつの間にやらずっと遠くへ行ってしまったスタープレイヤーのみなさま方へ。
まだ、勝負はおわっちゃいないぜ。
つか、終わらせないつーの。
こっから逆襲、はじめるよ!
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追記で一冊、書籍を紹介させてください。
仕事柄、広告に関する書籍を多数読んでいますが、僕の人生を変えたといってもいいほどの書籍が、コピーライター谷山雅計さん著の「広告コピーってこう書くんだ!」という本です。
それまでは試行錯誤していた自分の企画のやり方、コピーの考え方、プレゼン資料の展開の仕方などが、この本を読むことではじめて(なんとなくですが)体系化できるきっかけとなりました。
本記事の趣旨とは異なりますが、これから広告クリエイティブを目指す若手には是非読んでもらいたい。しかも、なるべくはやく。
僕の人生も、この本にあと10年はやく出会っていれば大きく違ったものになっただろうと痛感する書籍です。