「家庭でも職場でも、もっとうまくコミュニケーションをとりたい」
そのように感じる場面、非常に多いですよね。
「あいつ、俺の話、ほんと聞かねー」とか「大きくなった子供とどう会話していいかわからない」などの会話を耳にする機会は身近にあふれています。
「コミュニケーションで重要なのはプレゼン力より聞く力」というテーマで前回はお話ししましたが、今回はより具体的に、聞く力を伸ばすファーストステップである「相手を肯定すること」によって、どのようなメリットがあるかを仕事での具体例を交えてお話ししたいと思います。
夫婦間や家庭の話じゃないじゃんと落胆せずに読んでみていただけると幸いです。
きっと、これから読まれる内容を夫婦間や家庭にどう落とし込めるか、あなた自身が気づくはずです。
(このシリーズを最初から読みたい方は↓コチラの記事をお読みください。)
まず、相手を肯定することからすべてがはじまる。
→相手を肯定することで、相手の承認欲求を満たすことができる。
→絶対に使ってはならない言葉、「逆に」。
→「プロフェッショナルとは、ケイスケ ホンダ」にみる、肯定が生み出す可能性。
聞く力を伸ばす最初のステップは、「肯定」です。
僕は仕事柄、TVCMやプロモーション映像のクリエイティブディレクションやプレゼン、そして政治家やアスリート、企業人や一般の方へのインタビューなどをしてきていますが、基本はまず相手を肯定することからすべてをはじめます。
ひとつ例をあげてみましょうか。
広告案件のプレの場合。
僕は企画の方向性をだすとき、最初にまずクライアントのトップのインタビューを過去にさかのぼって調べ、読み返します。そして、そこからキーワードを抽出します。インタビューがない場合は、企業理念や商品開発ストーリーも参考にします。
次にそのキーワードを頂点とした言葉のツリーをつくります。
そこには、案件担当者からオリエンの際にきいた言葉もありますし、口コミサイトなどでの肯定的なコメントなども含まれます。そして、それら大量のワードを書き出し、大きなマインドツリー(マインドマップ)を構築します。(ネガティブコメントは別紙にまとめます。)
なぜ、そのような工程を踏むかといえば、そこにある小さなギャップから「アイデアの気づき」が生まれるからです。しかも、その「気づき」は決してこちらのエゴに満ちたものではなく、クライアントの方向性に「合致した気づき」となります。
この「相手の方向性と合致する」ということが、とても大切です。
どんなに革新的なアイデアでも、クライアントの意向に沿わないものは採用、お買い上げしてもらえませんよね?
「お!キミのとこはウチのことわかってるねぇ」と、まずは食いついてもらわなければ話にならない。このために必要なのが「相手を肯定する聞く力」なんです。
想像してみてください。
「弊社で独自に調査したところ、御社のオリエン内容にかなりズレがあるという調査結果がでましたので、それらをベースにした御社の新たな一面を訴求できる企画案をお持ちいたしました」
たまに誇らしげにこういう切り出しをする血気盛んなプレゼンターをみかけますが、もし、このようなことを言われたら、あなたならどう思いますか?
こういう場合、僕ならこう言います。
「本日の提案内容に関して調査したところ、ちょっと面白いことがわかりましたので、オリエン内容にそのちょっとしたスパイスを盛り込んだプランをお持ちいたしました」と。
お客さまも当然、僕の口上に含まれるホンネとタテマエはわかっていますが、フレーズの流れをポジティブにすることにより、安心し、信頼し、やがてホンネでぶつかってくれるようになるのです。
肯定することで承認欲求を満たす。
このように相手を肯定することは、相手の承認欲求を満たすことにつながります。
承認欲求がみたされると誰でもうれしいもの。
ついつい話さないでいいようなことまで話はじめてくれます。
「まだ社外秘だけど」「ウチの上はこの案件についてこう思ってるみたいで」などなど、プレゼンで勝利するための裏のファクトなどを話してくれる場合もあります。
インタビューの場合には、こうした反応が顕著にでてきます。
基本的にインタビューをされる側は初対面の際、不信感をもってインタビュアーと接します。ので、肯定されつづけることで心理的に安心し、こちらを信用し、徐々にこころをひらいてくれるようになるのです。これは、夫婦間やビジネスのシーンでも活用できます。覚えておいてください。
絶対に使ってはならない言葉、「逆に」。
僕がインタビューする際に絶対しないと心がけていることのひとつに、「自分のシナリオにはめる」というのがあります。
テレビや雑誌などの視聴者や読者は、そのストーリーを追うという習性を持っています。なので制作する側は、そのストーリーを追いやすいようにシナリオをつくるのですが、インタビューや会話などでこれをやるのは非常に危険です。なぜならそれは、本来相手が語りたい内容ではなく、「聞き手自身が語りたい内容」に話をすり替えてしまう可能性が高いからです。
あなたも普段の生活で身に覚え、ありませんか?
一時期流行った言葉に「逆に…」というのがあります。
「でも、それって逆にこうなんじゃね?」
という使い方で、相手の意見を否定し、自分の意見をのべる。
使ってる本人的には、相手に気づきのチャンスを与えたつもりで大層気持ちよくなり、その後も持論を饒舌にかたりはじめるトリガーになる言葉です。
これだけは絶対つかってはならない。
信用を失います。
かつて、この言葉を多用するディレクターがインタビューした映像素材を再編集する仕事をしましたが、「残念すぎる…」という感想しか持ちませんでした。そこにあったのはインタビューを受けているひとの意見ではなく、インタビューする側の意見のみ。「みんなが聞きたいのはキミの話なんかなじゃい、彼の話なんだよ」と何度もこころの中で毒づいたのを思い出します。
「プロフェッショナルとは、ケイスケ ホンダ」にみる、肯定が生み出す可能性。
これとは真逆のケースが2018年に話題になりました。
みなさんも覚えていますよね?
NHKの人気番組「プロフェッショナル」の本田圭祐選手の登場回でのことです。
番組の最後に「プロフェッショナルとは?」ときかれた本田選手は「プロフェッショナルとは、ケイスケ ホンダ」と答え、その問答が日本中で話題になり賛否の意見が多数でました。
僕はこのあとに本田選手をインタビューする機会を間近に控えていたこともあり、リアルタイムで興味深くこの番組を見ていましたが、このやりとりに驚愕するとともに、インタビューの本質というか、「ひとの話を聞く本質」をみた気がしました。
この番組を担当したディレクターも本当はもっとかっこいいこと、感動すること、または、わかりやすいコメントを述べてくれると期待していたに違いありません。だって、その方が視聴者にスッとはいるわかりやすいストーリー、感動できるストーリーに仕立てられるからです。
しかし、現実のコメントは、「プロフェッショナルとは、ケイスケ ホンダ」。
この言葉を聴いた瞬間、ディレクターの頭の中では「え、これって締めの言葉にできるの?」という危険信号がまたたいたのは間違いないでしょう。「やべ、番組落としちゃうかもしれん」って。
普通のディレクターなら、ここで「自分のシナリオ」に話を無理くりもっていくのですが、この担当ディレクターはその言葉を受け入れ、さらなる言葉を彼にうながし、引き出し、それをそのままあの人気番組の最後にもってきたのです。「彼自身が思っている、彼にとって本当に大切なもの」を浮き彫りにするカタチで。
これはつまり、予定調和の壁をぶちやぶって、その先の世界を世間に提示したことになります。
だからこそ、この言葉は話題になり、ビッグワードとしてバズったのです。
この事例を、「相手を肯定しながら話をつづけることで、予定調和から脱し、新たな可能性を見いだせるという典型的な事例のひとつ」として、僕は自分の脳裏にインプットしました。
そう、
肯定の先には思いがけないブレイクスルーが待っているかもしれないと。
最後に。
相手を肯定しつづけることで、そこにある小さなギャップから気づきを得る。
これが今回のテーマでした。
気づきとは与えられるものではなく、
自らみつけるものです。
そして、その気づきこそが、相手の信頼を勝ち取る最短で最強の道筋をあなたに教えてくれるのです。
あなたも早速、ご家庭や職場で「相手を肯定すること」を意識して行動してみてください。
そうすれば、きっと、その先に新しい未来がまっているはずです。
つづいて、相手を肯定し話を聞く力を伸ばす具体的な技術論についてお話ししたいと思いますが、それはそれで長くなりそうなので、また後日のお楽しみに。