1.
夕暮れ時に本屋に立ち寄った。
読みかけの本は数冊あるが、本屋が好きなんだから仕方がない。
本屋にいると、あっと言う間に時間が過ぎる。タイトルや表紙から「俺を手に取りやがれ」と叫び声がする。手に取る。前後、そして中身をチラッと見る。その間10秒。
「買うにはちょっとキミはセクシーではないな」
そう言い捨てて棚に戻す。
そんなことを繰り返していると、知らぬ間にもの凄くセクシーな女性がこちらを見ていることに気づいた。外見も中身もマジ俺好み。
「わかったよ」
「なにが?」
「今日、俺がここに来たのは、キミに会うためだったんだ」
恥ずかしがりながら告白する俺の手を取りながら彼女は言った。
「さ、行きましょ。夜は長いわ」
2.
「共に食事をすることは性行為に似ている」なんてよく言われるが、「読書とは性行為である」という名言を残したひとはいない。
本を買って家路につく。
その間のワクワク感は、まるでシャワーの音をベッドで聴いているようなものだし、ページをめくる時の指先に伝わる感触、そして脳内を駆け巡るニューロンは、喜びという官能をくすぐる。
「キミのことをもっと知りたいよ」
「私も、もっと知ってほしい」
本は読み手の感情に応える。
「あなた、こういうの好きでしょ?」
「そうでもないよ」
「うそつき。すぐ顔にでるんだから」
お互いの意識をさらけ出しながら、彼女と俺は官能的な会話を愉しむ。勿論、そういう関係を築けない本もいる。それはそれで仕方がない。「まずは友達からお願いします」「ごめんなさい」なんてのは当たり前で、「キミとは二度とあう気ないよ」「うっ、ひどいわっ」なんてのもあるし、「一途に愛して!」「無理っす」「この浮気者〜っ」なんて修羅場もしょっちゅうだ。
今日買った本とは、どんな関係が待っているのだろうか。俺はベッドに横になると、表紙のイラストをじっくり愛でてから、そっとページをめくった。
そう、はじめての女性のブラウスを脱がせるように。
3.
脱がせたブラウスから彼女の肩がのぞく。
「お願い、電気消して」
俺は言われた通りに動く。
はじめて読む本は、いつもかなり恥ずかしがり屋だ。そういう時は、まず相手のペースにあわせていく方が心地よい。
暗がりの中、腕を彼女の背中に回す。腰のくびれに指を沿わす。彼女が声を小さく漏らす。
ページにして5ページ。
ふとした違和感がこみあげてくる。
「お、俺、キミと前にあったことあるかな?」
焦りながら問いかける。
彼女は両手を自分の腰の後ろに回し、俺の指をイタズラっ子をあやすようにつまみながら微笑んだ。
「やっと気づいた?」
俺は急いで電気をつけると本棚へ向かった。そこには彼女と瓜二つの本が並んでいた。走馬灯のように、その子との思い出が蘇る。
「ねぇ、まだ続ける?それとも、もうおしまい?」
そのとき彼女の濡れた瞳は、新鮮だった俺の好奇心がみるみるしぼんでいくのを、面白そうに見つめていた。
(おしまい)
まとめ
石田衣良の作品に「スイングアウト・ブラザーズ」という小説がある。
30過ぎの非モテ男子3人組が、婚活アドバイザーのレッスンをうけてモテ男に変身するという、身近なサクセスを追った物語だ。その中で実践的で面白いレッスンが複数登場する。
「月に一度は本屋に行け」
「服はジャストサイズを着ろ」
「女性の話を聞け」
この小説の中で描かれているレッスンを大別するとこの3つになるわけだが、その中の「月に一度は本屋に行け」を要約するならば、「知性こそエロス(色気)」となる。そしてこのレッスンの先に「女性の話を聞く能力は本を読むことで鍛えられる」という著者のメッセージが隠されている。
「まだ本屋で消耗してるの?」
なんて意識の高いあなたも、たまには街の本屋さんに行ってほしい。
そこにあるインクの香りに脳髄をゆさぶられ、視角に飛びこんでくる様々な色彩や形状に直接触れることで、あなたの色気が活性化する。
「そのままの自分を好きになってほしい」なんて、甘えんな!
洗ってもいない大根を売っているスーパーなんて、この世にはほぼないのだよ。
ま、ここまで偉そうに語ってきたが、最後に「スイングアウト・ブラザーズ」の購入リンクを貼っておく。 世の中、きれいごとだけじゃ生きていけないんだよ。俺も君も、生きていくために必死なんだ!だから、このくらいは許してくれ。
では、また会える日その日まで…
See You!
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